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SDGs企業研究

サッポロが牽引するホワイト物流 人手不足、CO2削減、物流業界の労働環境改善にも有効

2019.12.23 (月)

 
 2019年4月、国土交通省・経済産業省・農林水産省が、上場企業及び各都道府県の主要企業約6300社に対して、「ホワイト物流」への参加を呼びかけました。この改革には、具体的にどういった効果が期待されているのでしょうか。そして、私達にどのような影響があるのでしょうか。

 これまでに“ホワイト物流化”を積極的に推進し、物流問題解決のリーダー的存在であるサッポロホールディングス株式会社ロジスティクス部・グループリーダーの井上剛さんに話を聞きました。
 

トラック運転手は年々減少&調達コストも増大!

 
 まず、物流問題を把握する上で重要なポイントは、実際に物を運ぶトラック運転手の人数です。1995年の98万人をピークにトラック運転手は年々減少し、2015年 の調査では76万7千人にまで落ち込んでいます。さらに、運転手の高齢化問題やトラック調達にかかるコストも年々上昇しており、国内の物流は危機的状況に陥ることが予測されています。
 


▲課題は山積みだが…
 
 しかし、その課題を解決するために期待されているのが、ホワイト物流なのです!

 サッポログループでは以前からグループ内の各事業会社の共同化(サッポロビール、ポッカサッポロフード&ビバレッジなど)を進めており、また北海道では、同業他社の清酒メーカーとの共同配送を業界に先駆けて実施。

 簡単に説明すると、「積荷を複数社で共同輸送すると無駄な積荷スペースが減る」ということです。

 例えば、サッポロと清酒メーカーの場合、夏にはサッポロのビールが売れる期間で、冬は清酒や焼酎の需要が増える期間としてデータで把握されています。年間通してピーク時の需要が違うので、倉庫保管やトラック・コンテナの空きスペースを補う形となり、無駄がなく効率的に運べるようになるという訳です。
 

 
「今後、運転手は増加しないとの予測なので、『限られたリソースでどのように課題を解決していくのか?』という点が最大の焦点となってきます。例えば、昔はドライバーが300キロ圏内までは運搬していましたが、今は人手不足や働き方改革などの関係で一般道で150キロ以上は運べないと独自で指標を設けています。なぜならば、8時間で往復できる最大距離がちょうどそのぐらいだからです」

 サッポロでは、長距離輸送の削減を実施するため、生産・物流拠点の見直しも進めており、輸送距離をより短くするために、来年の春には、東海北陸エリアのネットワークを見直し、名古屋地区に物流拠点を新設する予定です。その次に関東・首都圏エリアの再編を予定しており、その後も順次見直していくそうです。

 2015年からはサッポロとキリン・アサヒといったビールメーカーが、東京都内の小型配送を共同配送で、ビール製品や飲料製品を運んでいます。2017年からは北海道道東地区の一部エリアでサッポロとアサヒ・キリン・サントリーと鉄道による共同配送を行っています。

 また、2018年からは長距離輸送トラックの削減によるドライバー不足への対処を目的に、関西・中国―九州間の社内転送において共同で鉄道へのモーダルシフトを行っています。トラックなど従来の輸送機関から鉄道や船舶に変更することを「モーダルシフト」と呼びますが、これはCO2削減にも大きな効果があります。

「モーダルシフトは、トラックの使用を抑えることができるので、CO2などの温室効果ガスの削減にも役立ちます。こういった輸送専用車両を手配することは、ビール―メーカー各社で協力しなければ実現しないことでした!」

 SDGsでいえば7番「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に当たる活動です。鉄道の輸送用車両手配は、重工業系の会社が優先で、飲料メーカーが各々で商品を輸送している時は、不可能な手段だったそうです。
 

積荷を共同で輸送する際に重要になるのが規格の統一・効率化!!

 
 サッポロの考えるホワイト物流では、グループ企業や他社と共同で物流を実施することにより、人手不足などによる物流の停滞を避けることを目標の1つにしています。こうして効率化を図ることを「シェアリング」と呼ぶそうです。そのようなシェアリングで、最も大きな問題として浮上するのが、各社の規格の違いです。
 
「物流のシェアリングには、標準化が不可欠です。例えば、ビールパレットも業界で統一していることも一つです。ビールパレットの共同回収も業界で取り組みを実施、回収距離の短縮や積載効率を上げることでCO2削減にも大きく寄与しています。現在は、物流品質に関わる作業標準化や外装の表示に関しては視認性を高めるためにフォント・サイズの見直しを実施、包装設計では材質や強度に関わる標準化も進めています」

 ここで重要なのが、サプライチェーンマネジメントの最適化を図り、経済的な包装や、輸送に適した製品設計を行うという考え方…「デザイン・フォー・ロジスティクス」です。

「サプライチェーンマネジメントの最適化を図り、経済的な包装や、輸送に適した製品設計を行うという考え方会社によって表示方法などが異なると、物流の協力会社様が担う作業に必要以上に時間が掛かったりしがちで、非効率になるからです」
 

 

 
 また、物流業界はいまだに「紙とペン」が業務上で重要な役割を担っており、伝票などの統一も重要な目標だそうです。そういった伝票を統一した場合、例えば20社で共同配送すると伝票様式が20通りになってしまい現場は混乱必至だからです。

「今までは各社各様で自分たちのフォーマットを基準に作成してきましたが、業界標準とは何か? を常に掛けて、表示位置や文字のサイズまで統一を図る必要があると考えています。これからは高齢者や外国人労働者が担当する機会も増えると思いますので、誰でもわかりやすい方が良いだろうと、業界として、どういうフォーマットにしていくか協議を開始しています」

 このような改革は、もはや物流というよりは、調達から販売、消耗部品の供給の他に、設備メンテナンス体制や製品のライフサイクルなど、多方面から考える「ロジスティクス」と呼んだ方が適切かもしれません。そこには、労働者の負担軽減なども加味されて、SDGsの8番「働きがいも経済成長も」と9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも関わることです。
 

 
「物流に関わる全ての人に対しての、オペレーション負荷軽減がこれからの課題です。その活動として、まずビールテイスト製品の瓶・缶製品については、製造旬から製造年月の表示へ改定します。上旬・中旬・下旬という表記をなくし、年と月だけにします。このおかげで、倉庫作業としては、年間延べで36通りの旬管理をしなければいけないものが12通りへ減ります。これは、倉庫管理の作業負荷軽減と保管スペースの有効活用にもつながります」

 

▲左が変更前、右が変更後
 

物流業界の労働環境改善にも有効的

 また、物流業界の人手不足を加速させている要因のひとつとして、労働環境も問題になっています。一つの例として、注文されたものは定められた納期でお客様にお届けするという物流サービスを設けております。発注から納品までに必要な時間を「リードタイム」と呼びますが、その見直しもホワイト物流や働き方改革の大きな目標です。

「酒類・飲料業界では、一般的には当日受けた注文を翌日にお届けしていますが、それを翌々日にお届けするという動きがあります。リードタイムを伸ばすことで、これまで見込で車両確保をしていたものの精度が向上したり(無駄な車輛が減る)、急ぐことによる高速道路利用など利用が不要となるケースが出てきたり、深夜の倉庫内作業が日中作業に移行され働き方が変わったりと色々な効果も出てくると考えています。そして、なにより、物流に関わる負荷軽減につながるからです」
 

▲「リードタイムの見直し」に関しては、昨今の物流環境を踏まえると、サプライチェーン全体で効率化していくことが必要である
 
 特に深夜作業については物流業界全体でなくしていこうという動きがあるといいます。そのため、リードタイムの見直し以外にも、検品などの機械化・AI化も急がれています。

「リードタイムの見直しにより現在は、日中の作業が中心になっています。やはり物流の仕事は重労働なので、たとえば、倉庫の深夜勤務の時給が多少高くても、なかなか人が集まらないのです。一般的に考えると、深夜勤務ならば別の仕事を選ぶことが多いでしょう」

 また、総労働時間を減らすために、発送拠点をなるべく消費地の近くにおくことも、重要だそうです。物理的な距離が近ければ近いほど、リードタイムの短縮にも繋がります。また、被災した地域への物資輸送面でも、この方針が適しているそうです。

「2018年の西日本豪雨のときには生産拠点には在庫は揃っているのに、消費地に運べなかった。そういった経験を踏まえ、消費地の近くに物流拠点を持っていくことが重要だと考えております」
 

難題だからこそ同業者同士の協力が重要!

 

▲資料を使い非常にわかりやすく情熱的に説明してくださる井上さん
 
 もはや、物流において、単独で取り組めることは限られており、困難になってきていると、井上さんは分析します。同業他社だからとけん制しあう時代は終わり、一刻も早く、共同化や規格統一等でプラットフォームを実現する大転換期に来ているのです!

「同業者と共同してこの局面を乗り切り、WIN-WINの関係で協働しあうという信念で取り組まないと、今後は一社だけでは安定的・継続的に事業を維持できないと考えています。標準化・可視化を実施し、各企業と課題を共有し、課題解決に向けてシェアリングする取り組みが大きな進歩になります。学生さんもサークル活動で『他のサークル同士で協力してやれば、もっと大きなことをできるのに』と思うことはありませんか? その時に必要なのが、ホワイト物流に求められていることと同じ、規格統一・標準化なのです」

 物流問題は、業界のみならず、各店舗で商品を購入する私達にも大きな影響を及ぼす問題です。もし、解決することができなければ、私達の豊かな暮らしは維持できないでしょう。今後、各社が手を取り合い、新たな発想やイノベーションを用いて、課題解決に挑むことも重要ですが、私達一人ひとり消費者が利便性を追求することで及ぼす影響についても考える必要があるのではないでしょうか。

サッポロホールディングス株式会社

https://www.sapporoholdings.jp

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