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21世紀には日本の6割の砂浜が消滅!? 重大な環境危機に直面している砂浜問題

2020.11.10 (火)

 
 2013年に『Sand Wars(サンド・ウォーズ)』というドキュメンタリー映画がフランスで公開されました。この作品が扱っているサンド(砂)とは、私たちが海水浴場などで見かける砂浜の砂をはじめ、海底などから採取される「海砂」のことです。

 実は、日本でも「サンド・ウォーズ」を直訳した「砂戦争」または「砂の略奪」と言えそうな問題が砂浜に押し寄せてきています。一体何が問題なのでしょうか? 公益財団法人日本自然保護協会の志村智子さんに話を聞くと、その実態が浮かび上がってきました!
 

砂は有限な資源! 海砂の採取が環境破壊へ

 
 皆さんは『海の問題』と聞くと、海洋プラスチックゴミを思い浮かべる方が多いかと思います。

 海に漂流したペットボトルやビニール袋が太陽光などで分解され、マイクロプラスチック化される現象です。現在では、世界中で問題視され、日本でも2020年7月からはプラスチックごみ抑制の一環としてレジ袋の有料化も始まりました。

 海面に浮いていたり、砂浜など海辺に打ち寄せるゴミは目に付きやすいこともあり、かなり注目されていますが、実は海面からではなかなか見えない海中・海底も大きな問題を抱えています。

 気候変動・気候危機に関する問題では、海面上昇の影響が指摘されていますが、それによって砂浜がなくなるという見解もあるのです。
 

 
「現在、海砂の採取は東南アジアを中心に大きな社会問題になっています。砂の採掘によって砂浜が消滅し、漁村や沿岸部に住む人々の生活が脅かされ、深刻な環境破壊が起きていると指摘されているからです」

 東南アジア島々の沿岸から採取された海砂は、開発が進むドバイや中国などにも運ばれていると言われています。

 なぜそこまで海砂が必要なのか?

 それは、コンクリートの材料、ガラス、電子機器など日常生活に必要なモノに大量に使われているからです!!

 コンクリートとは、セメントペーストに粗骨材(砂利)、細骨材(砂)と水を混ぜることで完成します。海砂は細骨材として手軽に入手できる材料として需要が高いのです。日本では未洗浄の海砂をビルや橋脚を支える鉄筋コンクリートに使用することは禁止されていますが、日本コンクリート工学会によると、その他の建造物では古くから使用例があり、世界遺産である軍艦島は海水と海砂を使ったコンクリートが使用された記録があります。最近では、東日本大震災における港湾施設の復旧工事にも適用されています。

「材料の調達が容易で加工しやすいということで、コスト削減などの面から、海砂は世界中で使用されています。しかし最近、この砂が有限な資源であることに、各国が気づき始め、新型コロナウイルスの影響で延期されましたが今年のIUCN(国際自然保護連合)世界自然保護会議では、海砂の問題が決議のひとつに上がるはずでした」
 

伐採や工事も影響 災害被害にも拡大懸念

 
 東南アジアや太平洋の島々などでは、沿岸で砂を採取した影響で砂浜が減少していることに加えて気候変動による高潮などで砂浜が浸食され、漁村ごと消滅してしまう例なども増えています。遠い地域の出来事と感じる方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。日本はかなり昔からこの海砂の問題と知らず知らずのうちに付き合ってきたのです。

「瀬戸内海では1960年代後半から1970年代に海砂採取量が増加しました。その後、漁獲量が減ったのは、海砂を取りすぎたり埋立によって浅瀬がなくなったことが関係しているという説もあり、2005年度には完全に砂の採取をやめています」

 砂浜から沖に向かっていくと海中をのぞくと、沿岸部と沖の間には砂丘のような若干盛り上がっている境界があるそうで、そこには大型の魚が入れず、稚魚や小魚、ヒラメやカレイなどの住処になっていることが多いそう。そういった環境が海砂を採取することでなくなってしまうという訳です。
 

▲砂浜ノートより 日本自然保護協会(イラスト:NPO法人表浜ネットワーク)
 
 海砂採取の他にも、河川からの砂の供給が減ってしまったことも大きな問題だといいます。終戦直後、日本では戦災で焼失した住居の確保のために、伐採が盛んにおこなわれ、中にはハゲ山になり、地滑りなどを頻発させた地域が増え、土砂災害防止のために砂防ダムが全国の渓流に作られました。また、発電や飲料水供給のためのダム建設などで、本来は海に運ばれるはずだった砂が減少、または停滞するようになりました。

「山からの砂の供給が減ったことは、かなり深刻な問題になっています。ダムに溜まっている砂だけを人工的に流す方法も模索されていますが、ヘドロ状で溜まっているものもあるので、キレイな砂だけ流すことは困難です。そのため、なんとか砂を運ぼうと神奈川県では、砂だけを陸路で運搬し、砂浜を取り戻す試みをしています」
 

▲画像内のイラストを見ると砂の出どころがよく分かる
 
 実は海水浴や観光で訪れる砂浜も減少しつつあり、日本にある砂丘として有名な鳥取砂丘は、海砂利採集や治水工事に伴う河川からの砂の供給停止などで、その面積が減少していると考えられています。関東地方には九十九里や湘南、鎌倉など砂浜が有名な海岸地域もありますが、そういった砂浜も、侵食対策のために沖からの波の力を弱め、海岸の侵食を防止する離岸堤や水面下にコンクリートなどを沈めた潜堤、海岸付近に幅広い浅瀬をつくる人工リーフといった護岸工事によって維持されている場所が増えています。

「グーグルマップの航空写真で見ると、現在の砂浜や沿岸部地域がどういう状況なのかがよくわかります。離岸堤や、突堤を作って人工的なポケットビーチにして、砂の流失を止めようとしています。マップをみると、『あ、ここも、あそこもそうだ』ということになります。砂浜を残したいのであれば、今の離岸堤などでは対処療法でしかないということを自覚してもらわなければいけない段階にきています。持続可能な方向に持っていかなければいけません」
 


▲神奈川県茅ヶ崎市「ヘッドランド」

 


▲沖縄県名護市「ヘッドランドと人工ビーチ」

 
 こういった護岸工事は、漁港を守ることや、高度経済成長期に沿岸部に通した道路、そしてその道路が便利だからと沿岸にできた住宅地などを守るためにと広がってきました。古地図と現在の地図を比較して見られる「今昔マップ」を利用すると、昔の海岸線の変化がわかるそうです。

 地球の長い歴史の中では、過去にも海面が上昇した時期はありました。人間が手を加えていない河川や自然海岸が残っていれば、海面が上昇しても海岸線が内陸に移るだけです。しかし、今は海のすぐ近くに広がってしまった町や住宅をコンクリートの壁で守っているような状態なので、海面上昇すると、多くの海岸では砂浜は水没し、海水は護岸に直接打ち寄せるような状態になると考えられています。
 

▲鎌倉の海岸線(左は1896~1909年、右は現在)海岸沿いを通る道路部分は、昔の地図では砂丘がつらなっているのがわかる。「今昔マップ on the web」より

 
「昔、漁船を所有する網元の家は、意外と内陸にあり、海岸にあるのは作業小屋だったそうです。海岸沿いの住居が増えたのは、砂丘に道を通し、そこに人も集まってきたからです。しかしそこは、海からすれば、海の続きのような場所で、砂も飛んで来るし、ときには波もかぶるような場所だったりします。九州の豪雨などの影響で、今後は不動産業者が住む人にハザードマップ上のリスクを伝えなければいけないという決まりになりました。本当にそこに人が住んで危なくない場所なのかを見極める情報は増えてきています」

 また、日本の地理を学ぶことも、こういった問題を考えるうえでは需要になってくるそうです。

「最近の子供たちは地理教育を十分に受けていませんでした。点の取りにくい科目ということで地理・地学を学ぶ機会も、その科目で受験させてくれる学校も減少しているようです。地理や地学の基礎知識がないと、例えば、『海岸に道路を増やします!』という市長候補が立候補したとして、『それは本当に大丈夫なのか?』と考えることができない人が多くなってしまうのです」
 

海岸を見れば様々な環境問題が見えてくる

 
 海面上昇、気候変動、自然災害、海ごみ問題、海砂問題、水産資源問題、生物種の絶滅、生物多様性の劣化…。海岸に目を向ければ、今世界が抱えている環境問題がつぎつぎつながって見えてくると、志村さんは説明します。そして、島国の日本であればこそ、この海岸での問題を持続可能な社会に向けて、考えて解決していかなければならないと指摘します。

「昔、日本人は漁場という巨大な食糧庫をこの島国の周囲に持っていました。それが沿岸の環境改変によって漁獲量が減り、科学的な資源管理の理解が十分でないまま沖合や遠洋の回遊魚をとるようになり、その漁獲量も減ると今度は海外の魚を求めて買い漁るようになってしまいました。海はあいかわらず日本の周りにあるし、海の中は見えないのでわかりにくいですが、もう我々は海との付き合い方を見直さなければいけない時期に来ていると思います」

 志村さんは海岸の自然観察会などで子どもたちに向けて、楽しく学びながら問題を知ってもらう活動をしていますが、環境問題をはじめとする社会問題は常に新しい情報を元に判断していくことが必要になるので、子どもだけでなく、学校を卒業した後の大人たちこそが意識的に学び、問題意識を持ってもらいたいと話します。
 

 
 また学生に向けては、自然を知る活動をすることと、現在70代の方々に話を聞いてみることが重要だとアドバイスをいただきました。

「キレイな海で泳ぐ、川で泳ぐ。野宿キャンプなども、若いうちに体験してほしいと思います。その自然の中でどこまで生きられるか、地域の人たちはどういう生活をしてきたのか、地域の先輩の話を聞き、当時の生活を知る、そういうことも持続可能な社会を考える際にヒントになると思います。現在70代以上の方はギリギリ、薪を使いご飯を作ったりお風呂を沸かしていた世代です。エネルギーとは何か、どこから来るのか。プラスチック製品など使い捨て製品が増えたのはここ半世紀。プラスチックがない時代、『どうやって生活していたのですか?』と聞くだけでも貴重な情報になります」

公益財団法人日本自然保護協会

https://www.nacsj.or.jp

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