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地域の将来を担う“横断的人材”を育成する東京農大地域創成科学科 本田尚正教授を直撃「学生は共通言語を持ってほしい」

2021.11.26 (金)

 地方の過疎化が叫ばれ、なかなか有効な手が打てずにいる昨今、様々な事態に対応できる横断的人材が求められています。東京農業大学 地域環境科学部 地域創成科学科は、臨機応変に対応できる人材の育成を目的に2017年(平成29年度)に創設されました。どういった方針や狙いがあるのかを、地域創成科学科長の本田尚正教授に聞きました!
 

持続可能な環境を作るための人材育成が急務

 
 東京農大が同学科を創設した背景の一つとして、世の中の複雑化が根底としてあり、従来の“その分野のプロ”を育成するだけでは、数多く噴出する問題に対応しきれなくなったと分析したからです。

 そこで掲げられた方向性が、複数の学問に造詣が深い「横断的人材」の育成でした。地域創成科学科では、「生態学(エコロジスト)」「自然環境学(ナチュラリスト)」「土木工学(エンジニア)」「環境計画学(デザイナー)」を4つの柱とし、気候変動に対する緩和と適応、生物多様性の保全、防災、減災、地域社会の再生など、現在国内外が抱えている諸問題に対応する“横断的人材”の育成を目指しています。本田さんは建設・上下水道・森林部門の技術士であるということで、土木・防災分野の教育を担当しています。

「地域問題の解決を目指す場合、1分野だけできるという人材では、もはや問題解決が難しい状態です。昔は、地方の街や村には食品から生活雑貨まで置いてある、よろず屋が必ずありました。地域には今こそ、そのようななんでもできる店、つまり“人材”が求められており、『ひとづくり』『ものづくり』『ことづくり」』、地域創成科学科はこの3つをキーワードとして掲げています」
 

▲関西出身ということもあり、笑いも入れながら軽快なトークで説明してくださった本田教授
 
 地域創成科学科の人材育成において、「ひとづくり」は「教育」、「ものづくり」は「技術」、「ことづくり」は「計画・政策」をそれぞれ指すそうです。なぜ、このキーワードが生まれたかというと、異なる分野それぞれの目線に立ち、話し合いや調停をできる人間が極端に不足しているからだそうです。本田さんはそうした柔軟性を持つ人材のことを“共通言語”を持つ人間”と説明します。

「例えば、ダムを建設する場合、土木関係者が入山する、そして環境保全活動の関係者も同じく入山します。かつては、土木側は建設事業を強力に進めようとする、環境保全側はそれを断固阻止するといった、ともすれば対立の構図がありました。しかし、そのままでは母国語が異なる人間同士、例えば中国人とアメリカ人がそれぞれの母国語のみで主張し合うか、あるいはお互いに不慣れなドイツ語などで会話をしているくらい、チグハグで何も話が通じない状態です。土木を志す人間が生態学的に訓練されていないと、勝手で高圧的に見えるかもしれません。逆に環境を考える立場の人たちも、土木や開発側を敵視するのではなく、人が生活するインフラが必要ということを頭に入れておかなければいけません。どうしても譲歩できない部分の軸足は、最終的にどっちつかずになっては困るので、どちらかに置いてもいいとは思います。その上でお互いが理解できるくらいの共通言語を持って欲しいと考えています」

 本田さんによると、かつて公共事業などでの自然界への配慮と言えば、せいぜい「環境への負荷軽減」だったそうです。しかし、今日では生態系や景観自体を計画の当初から積極的に取り込むように変わっており、こういった事情を相反する両陣営に伝えるためには、ディレクターのような中間に近い立ち位置の人材がいると、話し合いもスムーズにいくことが多いとのこと。

 そのため、将来的に技術系の道を希望している学生にも、生物学や実際に哺乳類、鳥類のみならず爬虫類、両生類、昆虫類に至るまで数十種類を学ぶことも学科のカリキュラムに組み込まれています。逆に環境系が好きな学生にも力学や測量学などを必修で学んでもらうことになります。最終的に多種多様な動植物を目利きし、なおかつ土地の測り方、コンクリートの練り方、橋の架け方などの工学的な知識も最初の2年で学び、以降は自分の向いた分野を選択するというカリキュラム体系を整えています。
 

 
「最初の2年間で自身が生き物系なのか、技術系なのか、社会系なのかを見極めてもらい、残りの2年で集中的に学んでもらう形になりますね。持続力と瞬発力が大事で、支えるのは集中力。好きこそのものの上手なれで始めたことは、難しいことでも身になると思います」
 

地域に溶け込むには必ずしも合理的なことが正しいとはいえない

 
 地域コミュニティに入っていく際に重要になるのも“共通言語”です。特に都市部にいる人間が地方に住む人達とコミュニケーションを取っていく場合は、この能力が地域住民の本音を引き出す大きな力になるようです。

「我々、教員や学者が説明会を開いても殆どの場合『いい話を聞いた』で終わってしまいます。本当に問題を解決するには、地域に入って、コミュニケーションを取って聞くしかありません。信頼を築くのに、話し上手や口下手は関係ありません。口下手ならば聞き上手であればいいんです。ちゃんと聞いていれば、いざ『どう思う?』と話を振られた時に、答えがひとつかふたつ必ず出るはずです」

 では、どのように信頼を築くのか? 人付き合いにおいては、基本的なことがやはり重要になります。

「農大生には、目のあった人には挨拶する、頂いたものは残さず食べる、もし大根を渡されたら、迷わず『大根踊り(青山ほとり)』を踊った方がウケはいい、と必ず伝えています。必ずしも合理的ではないかもしれませんが、その地方の文化を受け入れて表現した方が、地方の人々は信頼してくれます」
 

▲フィールド実習「植物標本の作成」
 

▲総合実習「砂防ダムの働き(2019年度,群馬県川場村で実施)
 
 

デジタルは大切だけどアナログ感覚も必要!

 
 地域創成科学科では、学生が地域課題に実際に取り組む「フィールド実習」や「総合実習」などの実践的専門教育を行っていますが、本田さんは学生に対して現実的な提案をすることを教えています。

「学生に地域課題に関して好きにプランを作ってもらうと、オートキャンプ場だったらまだいい方で、たいてい大型テーマパークなどの箱物を作ろうします。これをただ批判するのではなく、交通手段、施設の維持費、人件費、インフラ設備費、投資回収など、現実の問題としてクリアすべき項目を説明すると学生も納得して、プランを練り直してくれます」

 現在はコロナ禍で、リモート講義なども多くなっていますが、本来ならば、農村部や山間部での野外講義も数多く行いたいそうです。なぜならば、職人気質的な肌感覚を養うことも欠かせない能力だからです。例えば、製図が出来るCAD(キャド)という設計支援ツールはとても便利ですが、現場で図面を確認した経験がないと、数値の違いなどに気づかず、全く見当違いの図面を描いてしまうこともあるそうです。

「私がPCを使わずに的確に数値の間違いをピンポイントで指摘すると、学生は『どうして分かるのですか?』と驚くことがあります。普通の状態では問題ないと思いますが、もしかしたら災害などで電気などが使えないときがあるかもしれません。その際に、『PCがないからわかりません』では頼りないので、そういったアナログ的感覚を養うために、現場で培う経験が必要になります」

 生態学、環境学、力学だけでなく、人間学も学ぶことができる同学科。本田さんは最後に、「なんでもチャレンジできる人になって経験値を高めて欲しいですね。愚直な人ほど地域に溶け込んでいける自力があると思います。東京農大は『人物を畑に還す』を建学の精神としていますが、我々はそれをもじって『人物を地域に還す』をキャッチフレーズにしています。学生には学科での学びを地域に還元していってほしいです」と伝えました。

東京農業大学 地域創成科学科 公式HP

https://www.nodai.ac.jp/academics/reg/regi_innova/

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