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実は廃プラより多い!? 日本国内の廃コンクリ年間3000万トン リサイクル可能な繊維補強コンクリート開発に挑む東工大・近藤准教授ら

2021.06.24 (木)

 近代社会において、ビル、橋脚、ダムといった大型の構造物を建築・建設するために、コンクリートは必要不可欠な材料です。コンクリートは保守点検を続ければ、大規模な修繕をしなくとも100年以上長持ちできる材料と言われていますが、耐久性・持久性にも限界があります。

 そこで、リサイクル可能なコンクリートの開発に挑み、「エコなコンクリート」を活用した資源循環型社会の実現に向けて全力を注いでいるのが、東京工業大学の科学技術創成研究院先導原子力研究所の近藤正聡准教授です!
 

再利用が困難な繊維補強コンクリートの繊維を融点の低い金属で代用

 近藤准教授は「核融合」や「液体金属」を専門とし、文部科学省の学術調査官を担当しています。また、最近では科学技術を対象としたゲーム型教材の開発にも熱心に取り組んでいる先生です。

 まず「液体金属」と聞いて、1991年公開の大ヒットSF映画「ターミネーター2」に登場する液体金属型ロボット「T-1000」を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。同ロボットは、身体を自由自在に変形することが可能で、腕や手をナイフに擬態化するプログラムが組み込まれています。映画を観た人の中には「こんなロボットが実際にいたらすごいなぁ」とビックリした方もいるかと思います。
 

▲金属は熱すると液体になり、冷えると固まります
 
 さて、その「液体金属」と「コンクリート」がどのような形で交わるのでしょうか!?

 まず、コンクリートの情報を知ることが重要です。実は廃コンクリートの発生量は日本国内だけでも年間約3000万トンあり、日本国内の廃プラスチックの発生量年間約900万トンよりも多いと言われ、深刻なゴミ問題として懸念されつつあります。

 また、コンクリートは比較的割れやすい材料なため、それを補うために様々な繊維を混ぜた「繊維補強コンクリート」が建築・建設用に使用されます。繊維を入れることで、柱、梁、耐震壁、橋下駄の表面など、ひずみによって生じるひび割れやコンクリートがはがれ落ちるのを防ぐ目的に使われていますが、“コンクリートをリサイクルする”という点においては、その繊維素材が大きなネックになります。
 

▲意外と割れやすいのがコンクリート
 
「補強用繊維に使われる素材は、炭素繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなど様々ですが、これらの繊維が混ぜられているコンクリートは分離が困難なため、リサイクルできません。そこで、補強用の繊維は融点の低い金属にし、使用後に加熱して液体にすることで、分離して取り出そうと考えています」

 簡潔に説明すると、コンクリートに混ぜられている繊維素材の代わりに、融点の低いスズやアルミの合金の針金に独自のねじりを加えた素材を用いて、“強度を保ったままリサイクル可能なコンクリートを開発する”ということです。
 


▲コンクリート柱を割って強度を確認。コンクリートの中にはねじりが加えられた金属素材が混ぜられている
 
 しかし、注意点があります。

 この低融点の金属で補強したコンクリートをリサイクル可能にするためには、スズやアルミとコンクリートを完全に分離しなければいけません。分離させるためには、熱を加えながら遠心分離機で、液体金属だけを抽出する必要があります。しかし、熱を加えすぎると、金属とコンクリートが共に反応してしまい、混ざってしまうそうです。近藤さんの研究室では、完全に分離が成功する最適な温度や条件を調べるために、日々、研究を繰り返しています。
 

▲遠心力を利用して、液体だけを取り出す実験。この実験装置は近藤研究室の生徒が一から自作。すごすぎる!
 

▲最適な温度を調査する装置
 
 実は今回の研究は、金属を使用したリサイクル可能な建材の開発ということで、コンクリート構造を専門とする環境・社会理工学院 土木・環境工学系の千々和伸浩准教授、金属化学を専門とする物質理工学院 材料系のオ・ミンホ助教と連携し、取り組んでいます。
 

 

SDGs17番と合致「垣根を取り払わないと新しい発想は生まれない!」

 この3名が知り合ったきっかけは、2018年に異分野融合研究の創出促進を目指して開催された学内イベント「東工大リサーチフェスティバル」です。
 

 
「2人の先生とお会いして話したときは、『ターミネーター2』に登場するT-1000の液体金属の再現や『イグノーベル賞』を狙えるような笑える研究など、比較的ラフな内容の会話をしておりましたが、段々と真面目な話に発展して、今回の繊維補強コンクリートの題材に行き着きました」

 他の研究者に自身の研究を介入されたくないという先生もいるそうですが、近藤准教授とチームを組んだ2名の先生は、「研究幅を広げて新しい物を作りたい」と共通意思を持っていたそうです。

「垣根を取り払わないと新しい発想は生まれないと思います。2名の先生は非常に協力的で、千々和先生は近藤研究室の生徒が実験に参加するのを快く迎えてくれましたし、ミンホ先生も専門である金属の反応性の実験の方法などを生徒たちに教えてくださいました」

 SDGs17番では、「パートナーシップで目標を達成しよう」と目標が掲げられています。SDGs達成には、自身が持つ専門性だけでなく、様々な分野のエキスパートと連携して、課題を解決していかなければいけません。近藤准教授らのチャレンジは、SDGs9番の「産業と技術革新の基盤をつくろう」やSDGs7番「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」などに当然のことながら関わっていますが、やはりSDGs17番と合致していることが非常に大きいでしょう。
 

未来のために自分が興味を持てることを貪欲に探してほしい

 

 
 そして、今回の取材を通じて印象的だったのが、研究に携わっている生徒さんの能力の高さです。ある生徒さんは液体化した金属を取り出す検査機器(前出・写真)をイチから自作していました。

「機械工学の研究をしている学生が、今回のコンクリートの研究に興味を持って、参画してくれる生徒もいます。若い人には自分の知りたいこと、楽しいことに貪欲になってそれを形や勉強にして欲しいですね」

 そもそも、近藤准教授が専門分野である核融合に興味を持ったきっかけは、『機動戦士ガンダム』の影響だそうです。

「ガンダムファクトリー横浜にある等身大の動くガンダムなどをきっかけに、モノ作りが注目されるのはいい流れだなと思います。ある一定の年齢を超えた時に好きなことを仕事にしていた方がハッピーなのだろうと思います。人に会う、ボランティアをする、今はコロナ禍で大変ですが、コロナ禍が収束したら海外に行くでもいいです。未来のために自分が興味を持てることを貪欲に探して欲しいと願っています」

 今や近藤准教授にとって興味の塊となった「エコなコンクリート」の開発。コンクリートを完全にリサイクルできれば、新しい持続可能な資源が生まれます。最後に、繊維補強コンクリートの実用化への可能性を聞きました。

「研究内容や実用化に向けての支援に関して企業に説明をしても、今のところ良い反応はありませんでした。コンクリートの寿命は100年と言われていますが、作って終わりになってしまうと、子どもたちの世代がその代償を払うことになります。そのような未来にならないためにも、実用化に向けては非常に超えるべきハードルが多いですが、地道に研究・実験を行い、根気強く企業に説明していくことが大事だと思います」

近藤正聡先生の公式ツイッター

https://twitter.com/hwh56c5d5wopgtq

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