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千葉商科大学 学生と教職員の情熱がなければ実現できなかった日本初の「自然エネルギー100%大学」!
2021.02.16 (火)
千葉商科大学は、2014年度から日本初の「自然エネルギー100%大学」を目指して検討を開始し、2019年1月には電力を創り出す点で、11月には電力を調達する点で、キャンパスで使用している電力の100%を自然エネルギーで賄うことを実現しました。
現在は電力だけでなく、ガスなども含めたキャンパスで使用している全エネルギーの100%自然エネルギー化を目指しています。なぜ大学がこうした取り組みをするようになったのか、そしてなぜ実現できたのか、その成功の秘密を同大学の原科幸彦学長に聞きました!
商科系の大学らしい発想でビジネススキームを構築
千葉商科大学は、2013年に千葉県野田市にあった大学野球場を移設した跡地に「メガソーラー野田発電所」を建設し、2014年4月からFIT(固定価格買取制度)を適用して東京電力に売電しています。この発電所建設の前から、当時、政策情報学部教授であった原科氏は、同大学を再生可能エネルギー導入の拠点にできないかと考えていました。
▲メガソーラーを建設するために山を切り崩すなどの自然破壊をしていないところがポイント ※千葉商科大学提供
太陽光発電所が完成し、どのくらいの発電量となるかを、当時の鮎川ゆりか教授、 杉本卓講師らと共に3教員で始めた、持続可能なエネルギー研究の合同ゼミのメンバーが推定。メガソーラー野田発電所の発電量は、2013年度の学内使用電力の約60%という推定結果が出たそうです。残り4割の電力をどうするか、原科氏は東京工業大学在職時の経験から、「60%はスゴい!!」と感じていたそうです。あと「40%なら…」と考えていた時、この合同ゼミに学外から参加したエコ・リーグの学生から「100%を目指しては!」と背中を押されました。
そこで、2014年9月にプレスリリースをして、政策情報学部長として「100%を目指したい」と意思表示。しかし、当時は大学組織としての決定ではありませんでした。
2015年度、外部コンサルタントの協力を得て、経済産業省の補助金を獲得し、ネット・ゼロ・エネルギー・キャンパスの可能性を調査しました。メガソーラー野田発電所の初年度、2014年度の発電実績は、市川キャンパスで消費された電力の77%に相当することが分かりましたが、これは予想以上の結果でした。残り23%を省エネ・創エネで削減できれば、ネット・ゼロ・エネルギー・キャンパス、つまり、ネットで「RE100大学」となりうると判断したそうです。
その後、この活動の全学的な理解を深めるため、学生と教職員の共同による7月の打ち水大作戦などの諸活動を行うとともに、学部長として大学首脳部への働きかけも行いました。そして、2017年3月1日の原科幸彦学長就任時に提案した4つの学長プロジェクトの一つとして、「自然エネルギー100%大学」に向けた活動をスタートさせました。
▲キャンパス内の校舎屋上に設置されているソーラーパネル
▲2018年度に発足した学生団体「SONE(自然エネルギー達成学生機構)」。大学に様々な提言をし、学内電力消費量の削減に挑んでいる。※千葉商科大学提供
学長プロジェクトの一つとして、学生を巻き込んだ活動を展開しています。教職員も学生とともに省エネ活動などを行い、新たな実学教育の機会にもなっています。しかし、自然エネルギー100%達成は、単に省エネ活動の推進だけでは不可能です。そのためには、大学組織としての設備投資が必要です。この課題を実に商科系の大学らしい発想で乗り切ります。
「まず、この活動の支援をするためにCUCエネルギー株式会社を設立しました。大学子会社や大学首脳部、金融機関等が出資をして大学発の地域エネルギー会社という形を作っています。このCUCエネルギー株式会社からLEDやソーラーパネルをリースして使うシステムを構築したので、億単位で必要な設備投資の代わりに、毎年の経費として年間数千万程度の支出に抑えることができました」
現在は、市川キャンパス内の自家消費用の屋上太陽光発電のほか、電力調達を全て自然エネルギーとするため、みんな電力株式会社の協力を得ています。まず、同社を通じてメガソーラー野田発電所のFIT電気を東京電力から非化石証書付きで買い戻し、夜間など不足する電気は、みんな電力から再エネ電力を購入しています。これにより市川キャンパスで調達する電力は自然エネルギー率100%になっています。
▲※千葉商科大学提供
SDGsにも通じる建学の理念
自然エネルギー100%大学の取り組みをはじめとするSDGSs推進が学内に浸透した背景には、同大学の建学の理念がSDGsと同じ方向性だったことが強く影響しています。
同大学の創設者・遠藤隆吉博士は1928年当時、世界恐慌直前の好景気に浮かれ、商業道徳の廃れた日本を憂い「実業家となるべき者に商業道徳を吹き込み殊に武士的精神を注入するは最も急務なりと謂わざるべからず」と述べ、商業道徳の涵養(かんよう)の必要性を説きました。これは、言い換えれば「まっとうな商い」をとのことだと、原科学長は指摘します。
そこで、遠藤博士は武士的精神を注入することを教育の基礎とし、「治道家」の育成を教育の理念に掲げました。治道家とは、大局的な見地に立ち、時代の変化を捉え、社会の諸課題を解決する、高い倫理観を備えた指導者を指します。
原科学長は、遠藤先生のいう武士的精神とは、新渡戸稲造著の『武士道』に書かれているものと同じだと言います。
「武士道の精神は日本のモラルの源泉であり、商業モラルの源泉でもあります。『義』とは正しいこと、『勇』はその正しいことを実行する勇気、『仁』は人々への思いやりです。この中で『仁』が特に重要で、SDGs全体のテーマ『誰一人取り残さない』と通じます。ただ利益を追求するのではなく、人や社会や自然に配慮した財やサービスを提供しようという部分につながっています。実は持続可能な社会に対する考え方というのは、日本では昔からあったのです」
また、日本はこうした精神面の伝統だけではなく、環境や資源の面でも特徴があり、日本列島は自然エネルギー資源の宝庫だと、原科学長は強調します。
「欧州で最も自然エネルギーを推進しているドイツは、日照時間は日本より平均して短いです。太陽光発電に必要な日の光も多く、洋上風力が大いに期待でき、バイオマスを作る森林も豊富、水力を活かす勾配も遥かに日本の方がある。資源的に劣っているドイツが100%自然エネルギーを目指すと言っているのに、日本が目指さない理由はないと思います。日本でうまくいけば、気候風土が似ている東南アジア地域でもうまくいくでしょう。そうすれば、新たな投資の機会も生まれます。2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると、(去年の)10月に菅義偉総理大臣が初めて表明しました。この結果、政財界も動き出し始めました」
▲東京工業大学出身の原科氏。テクノロジーへの深い知見と経営感覚を併せ持つ、稀代の学長である
2019年9月、千葉商科大学は「千葉商科大学SDGs行動憲章」を策定し、社会的責任を果たしていくための指針を明確にしました。原科学長は「SDGsを理解した学生が就職や起業し、社会の変化を促すような活躍をしてほしい」と学生たちにエール。
そして、原科学長は現在、構築したビジネススキームのノウハウを他大学に提供し、地域分散化エネルギー社会実現の第一歩とするため、自然エネルギー大学リーグ設立に向けて動き出しています。その行動は、まさに「仁」! 今回、千葉商科大学が「自然エネルギー100%大学」を実現させたことによって、他大学も影響を受け、「大学運営」のあり方や方法が変わっていくかもしれません。
千葉商科大学
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