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「第28回地球環境大賞」受賞の大日本印刷…SDGsと製品の関連性を見出し、地球環境保護へ繋げる!

2019.07.24 (水)

 
 大日本印刷株式会社(以下、DNP)は印刷会社の大手として有名ですが、環境への取り組みも注目されています。今年の4月に表彰式が行われた「第28回 地球環境大賞」(フジサンケイグループ主催)では、同社が開発した輸送時に電源を必要とせずに定温での長距離輸送を可能とする製品「DNP多機能断熱ボックス」が大賞を受賞しました。この製品の機能や開発背景だけでなく、同社が取り組むSDGsへの活動などを、高機能マテリアル事業部 営業第3本部課長・山中剛さんと、CSR・環境部ビジネス企画推進グループリーダー・鈴木由香さんに伺いました。
 

温室効果ガスの排出量削減やフードロスを抑制する製品に!

 
 DNP多機能断熱ボックスとは、特殊な断熱材を使って、高い保温性を実現した輸送用のボックスになっています。同製品は、湿気や外気などを通しにくい「ハイバリアフィルム」を活用した「真空断熱パネル」という素材を使用しています。元々はDNPが食品メーカーに提供しているレトルト食品用の包材の技術を応用したものです。
 

▲現在は営業部に所属している山中さん。DNP多機能断熱ボックスを開発したひとり
 
「真空断熱材は、非常に薄いという特性を持っています。しかも断熱性が高く、その技術を活用して物流用の素材として転用できないかと開発が始まりました」(山中さん)

 同製品は2014年に完成しましたが、当初から環境保全の観点だけではなく、輸送業でのドライバー不足など様々な課題を想定し、常温のトラックでも保冷できるゾーンを確保しようという目的がありました。完成品の検証の結果、高い断熱性によりドライアイスを通常の保冷剤に変更しても十分に保冷効果があることがわかりました。これにより、ドライアイスや保冷機能を備えたトラックを使用しなくても良いということで、温室効果ガスの排出量削減の効果が期待できることが明らかに!!
 

▲断熱ボックスを折りたたむと右のようにコンパクトになります(DNPより画像提供)
 
 さらに、折りたたみ可能で繰り返し使えるため、資材の削減につながる効果や、赤道直下の東南アジア地域では、輸送中に腐ってしまう食材のフードロス削減にも役立つことも注目されました。大きさは、一番搭載量が大きいものだと1470リットルのロールボックスパレットサイズ、小型のものだと42リットルのミニチュアサイズになるそうで、様々な現場で利用が可能です。

「当時は、『環境にいいものを出そう!』とは、それほど強く考えていなかったと思います。しかし、結果として温室効果ガスの排出量削減やフードロス抑制に繋がった製品と言えます。現在は国内の他に東南アジアでも、まだコスト的に壁はあるのですが、フードロス問題をなんとかしようとアプローチし、何社かに採用いただいています」(山中さん)
 

環境面で大きく貢献できる可能性を感じ、「地球環境大賞」に応募!

 

▲鈴木さん。社内でSDGsの勉強会を率先して開催し、社員間の情報共有を積極的に促しているそうです。
 
 この製品を環境大賞向けにアピールしようと企画したのは鈴木さんで、担当者からの製品詳細を受けて、「これは環境面で優良な製品だ!!」と自信を持ったそうです。同社は、環境に良いと考えられる製品を「環境配慮製品・サービス」と認定する制度があります。

「わが社では、温室効果ガスの削減は重要な環境課題と認識しています。環境担当である私は、製品の環境訴求ポイントを色々と考えるのですが、その中で『DNP多機能断熱ボックス』は、環境保全に加え、様々な社会課題を解決する製品だと思いました」(鈴木さん)

 鈴木さんは、まず、同製品が環境にいかによいかをアピールするために、毎年都内の東京ビックサイトで開催されている「エコプロ」に出展することを提案したそうです。同展は、持続可能な社会の実現に向けて各社が環境配慮製品や、環境関連技術、サービスを紹介する展示会です。
 


▲「エコプロ」でのDNPブース(DNPより画像提供)

 
「2015年から『エコプロ』に同製品を出展しました。2016年の出展では、2015年に国連サミットで採択されたSDGsと紐づけて出展もできました」(鈴木さん)
 

「DNP多機能断熱ボックス」を利用した方も保冷能力を大絶賛!

 
 地球環境大賞への応募を検討し始めたのは2017年だったそうですが、時間をかけて実績と効果の定量化を進めてきました。その間DNPは、独自のシミュレーションソフトを自社で開発。そのソフトは、『どんな環境で何時間運ぶとボックス内は何℃になるのか?』『その時に必要な保冷材の量はどの程度か?』を想定するもので、何回もシミュレーションを繰り返したそうです。

「身近な問題をいかにグローバルな問題と紐付けるかが、環境担当の役割だと思っています。最終的に、製品の環境側面だけではなく、自社の情報技術を活かした輸送シミュレーションについても訴求でき、輸送が抱える様々な大きな問題に対処することのできる製品だと評価を受けました」(鈴木さん)

 

▲「第28回地球環境大賞」での一幕。秋篠宮ご夫妻の前で、今後も社会課題の解決に取り組むことを明言した大日本印刷の北島義斉社長(DNPより画像提供)

 
 生の声を聞けることも、同製品の特長なのだそう。DNPの製品は、ひと目でDNP製と消費者にはわかりにくいものが多かったようですが、時間をかけて実績と効果の定量化を進めてきました。その地道な努力の甲斐もあり、今までにない体験も出来たそうです。

「6月1日・2日に開催された音楽イベント『日比谷音楽祭』では、出演者向けの飲料保存用として、DNP多機能断熱ボックスを活用していただきました。このようなイベントでは電源を確保することが大変だそうで、今までは自動車のエンジンをかけっぱなしにして保冷していたそうです。イベントは2日間でしたが、イベントスタッフさんに大絶賛されました」(鈴木さん)

 初日に保冷剤を入れたボックスが、屋内に置いてあったものは2日目でも10℃以下で、屋外に置いてあったものでも12℃程度に維持されていたとのことでした。鈴木さんも実際にひんやりしているボックスの中に手を入れ、ここまでの機能があるものだと、改めて思ったのだそうです。

 

学生へ「自分の能力の中で出来ることからやっていくことが、大きなことに繋がっていく」

 

「印刷(printing)と情報(information)の強みを掛け合わせて、革新的な新しい価値をつくり、人々の生活を豊かにする」

 同社は「P&Iイノベーション」という言葉を事業ビジョンに掲げ、さまざまな企業活動を展開しています。

 そうした活動のなかで、SDGsに関しては、具体的に17項目あるうちの、“何番に取り組むという目標を設定するのではなく、幅広い視点での技術や製品・サービスの開発を通じて、社会課題を解決している”というのが理想なのだそうです。

「これまで以上に製品やマネジメントと実際の事業を通じて環境問題に取り組み、誠実に課題を解決していくなかで、『こんなところに役立っているんだ!!』と、DNPの技術が世の中に欠かせない“あたりまえ”の製品・サービスを作り出していく会社を目指していきたいですね。それがわが社のSDGsの根本なのだと思います」(鈴木さん)

 最後に大学生へ向けての訴えたいことについてお聞きしました。

「DNPの中には本当に様々なジャンルのビジネスが存在しているので、モノづくりに携わっている社員もいれば、コトづくりに取り組んでいる社員もいます。どの角度からも社会貢献できるというのが、わが社の特徴です」(鈴木さん)

「私は、本当に“廃棄物やフードロスをなくそう”と考えながら、この技術を使って環境面を良くしようと日々営業しています。自分が置かれた状況や持っている能力の中で、企業に貢献し、結果的に社会に貢献していく。みなさんも、まずは自分の能力の中で出来ることからやっていくことが、大きなことに繋がっていくと思います」(山中さん)
 

▲フランクにお話してくださった2人。その雰囲気から社風も感じ取ることができました
 
 BtoBのビジネスがメインであるため、「大日本印刷」や「DNP」という企業名が直接消費者に届く機会は少ないですが、様々な方面で人の生活のために役立つ技術を提供しているのがDNPという会社です。SDGsへの取り組みも同社の経営理念らしいといえるのではないでしょうか。

大日本印刷株式会社

https://www.dnp.co.jp

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