大学生ネットワーク
実現可能か!? AI・ロボットと人間が一緒にSDGsを考える社会
2020.10.13 (火)
日本のロボット工学の研究者として長年に渡り、人材の育成やロボットの発展に尽力している大阪大学特任教授の浅田稔さん。2019年3に日本ロボット学会の会長、そして2020年7月には一般社団法人「次世代ロボットエンジニア支援機構」の顧問にも就任し、これまで以上にロボットやAI、若手の人材育成にも力を入れています。そんな浅田さんに日本のロボット技術の現在やロボットと人間の未来などを聞きました!
柔軟な発想を生むためにアウトプットできる場所が必要不可欠!
浅田さんといえば、二足歩行ロボットでサッカーをする「ロボサッカー」や災害救助を想定したロボットで成果を競う「ロボレスキュー」などの競技を行う「ロボカップ」を、AI・ロボット工学の第一人者である北野弘明さんと開催するなど、エンジニアの技術力向上のために斬新なイベントを生み出してきました。
そのようなイベントの殆どがAIのプログラミングとロボット構造の両方が上手く機能しないと勝てない競技となっています。なぜなら、多くのロボット工学者たちは、その2つの要素を含む複合的な研究が必要だと感じているからです。
▲オンライン取材に応じてくださった浅田先生
「機械工学や電気・電子工学はロボットの基礎として重要ですが、残念ながら一般的に大学で教えている機械工学と電気・電子工学の連携は殆どないのが現状です。機械・電子工学・情報科学処理と学科や教科を分けていては、学ぶことが限られて、柔軟な発想が生まれにくくなってしまいます。そこで、複合的に考えてアウトプットできる場として、最もロボット競技が適していると判断し、『ロボカップ』を創った経緯があります」
AI研究分野で日本が大幅に遅れている現実
浅田さんが「複合的に考えてアウトプットできる場が重要」と訴えている理由としては、大学の教育システムの問題だけでなく、やはり日本のロボット工学やAI開発の競争力が落ちているという現実に直面しているからです。ひと昔前までは、ロボットは日本の得意分野と言われ、産業用ロボットも日本企業の技術力が強かったですが、最近それが覆りつつあると分析します。
「アカデミズムの分野において、AIとロボットの分野で日本は、最近あきらかに中国に負けているなと実感しています。また現在、AI研究ではアメリカがトップを走っていますが、論文の作成者を確認すると中国人だったりします。もちろん、玉石混交ではありますが、日本は、AI研究の分野では、周回おくれどころか、2周回遅れと言われることもあります」
AI分野だけでなく、産業用ロボットでも押され気味になってきた現状を打開するためには、子どもたちにAIやロボットに興味を持ってもらうことが重要です。「ロボカップ」の他に、小中高生を対象にした「ロボカップジュニア」を開催している理由もそこにあります。
「とにかく子どもたちが科学に触れる機会を増やすことが最大の目的です。ロボット競技会の意義は、分野をまたぐ教育が出来る点にあります。学校では実現しにくい部分を、我々のような研究者が企業と連携して、人材育成、産業育成を担っています」
また、国内では小学生を対象としたプログラミングの教育も始まりましたが、この授業で重要なのは、“子どもと先生の距離感”だと指摘します。
「授業では定められたゴールに向かい子どもたちを指導します。学校教育の現場ではそのアプローチ方法が正しいのですが、プログラミングに対して、子どもがどうのように興味を持つかが重要です。また、危惧している部分は、子どもの発想に先生が付いていけるかどうか。授業という環境を提供するだけで、子供の“柔軟な発想”を妨げてしまうと、意味がなくなってしまいます」
人間と同じ悩みを共有して欲しい! ロボットが人型であることの意味
日本のロボット開発で、よく話題に挙がるのが、“人型”へのこだわりです。そもそも人に近づける必要があるのか、人型にこだわりすぎているために日本研究は遅れてしまっているのではないか。そういった批判もありますが、浅田さんは“人型”であることが重要だと訴えます。
「よく飛行機と鳥は全く構造が違うと言われますが、元々飛行機は鳥の飛翔原理を元に製作していますので、『人工物は人工物で考えればいいんだ』という考えは、私は違うと思います。産業用ロボットなども、元々は人の動きを規範に作られています。日本のロボット工学は人型ばかり作って役に立たないと批判されがちですが、人間が本来持っているメカニズムを明らかにし、それを機械に落とし込むことに、本当は意味があるのです」
人間とAIの共存を考える面でも、ロボットが人型である、人に近づけるという方向性は重要です。人間の考えが及ばない部分をAIがサポートしてくれることもあるからです。
「私は最終的にAI・ロボットにSDGsなど、持続可能な社会のためのことを一緒に考えて欲しいと思っています。そうすれば人間には思いつかない解決策を提供してくれるかもしれません。今、ロボットに痛覚を持たせるという研究をしているのですが、これも、ロボットに相手への痛みを理解してもらいたいという狙いがあります」
どちらかが支配されるのではなく共生していくものである
AIやロボットに関する考え方や活用方法は各国によって異なり、その国の文化的史観で位置付けは大きく変わります。例えばアメリカの場合だと軍事面での活用が強くなり、兵器としての性能が第一となります。日本はというと、大人気アニメ「鉄腕アトム」や「ドラえもん」など、コミュニケーションとれる相手であることが多いそうです。
「私が『AIは人の奴隷なのか、それとも人がAIの奴隷になるのか』とドイツのメディアで質問を受けた時に、『どちらでもない。共生するのだ』と答えたのですが、理解してもらえませんでした。最終的に『ドラえもんの世界』と説明したら、理解してもらえたことがあります。命令もしない服従もしない対等な存在、友達のような関係性で共生してくれるロボット。私はそんなロボットに死に際を看取ってもらいたいという理想があります」
▲現在の人型ロボットと言えば、ソフトバンクロボティクスが開発した「Pepperくん」
浅田さんによれば、ロボットとの共存問題は人の多様性を受け入れる話と同じだと言います。理解し合えなければ平行線のまま。それを打ち破るには、「常識」を覆す発想を持つことです。
「Amazonの倉庫では動く棚のロボットが在庫管理をしています。『棚は動かせる』という発想になったから棚は動いたんです。できないと思うことが、結果的にできなくしています。結果は同じでも、常識をとらわれずに、挑戦するとしないとでは大違いです。失敗すれば、なにがダメだったのかがわかるからです」
Amazonの話でも分かる通り、発想の転換は非常に重要で、浅田さんは大学生に対して「常識を疑ってほしい」と強く訴えます。コロナ禍で様々な常識が変わりつつありますが、まだまだ「常識を覆せる」物事は多いはずです。大学生のみなさんも「失敗」を恐れずにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
一般社団法人「次世代ロボットエンジニア支援機構」
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