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「ゴミ清掃芸人」マシンガンズ・滝沢秀一 当事者だから感じる日本のゴミ問題、食品ロス、そして人生

2020.09.25 (金)

 
 太田プロダクション所属のお笑い芸人でありながら、週4~5日にゴミ清掃員として働いているお笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一(44)さん。現在、「ゴミ清掃芸人」としてブレークし、数多くのテレビ番組にも出演。9月10日には6冊目の著作『やっぱり、このゴミは収集できません ~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと』(白夜書房)を出版した。

 そんなノリに乗っている滝沢さんを「豪田ヨシオ部」が突撃インタビュー! どんな想いでゴミ収集という仕事に携わり、現場からどんな問題を感じているのか!? 赤裸々に語ってもらいました!

 滝沢さんがゴミ清掃員になったのは、芸人を多く起用するバラエティ番組の終了やお笑いライブでの出演が激減したのが大きな理由でした。

「このままではお笑いで食べていけないと焦っていました。まぁ、ちょうど8年前が限界だったんですね。悩んでいた時に、ちょうど妻が妊娠したので、家族を養うためにゴミ清掃員になりました。芸人をやめた知り合いが仕事を紹介してくれたんです。35歳以上の求人はほとんどなかったので、当初は仕方無しに選んだ仕事でしたね」

 2012年からゴミ清掃員として働き始めた滝沢さん。朝は6時半に職場に集合、気温や天候も関係なしの労働条件の下、都内23区でゴミ清掃員として働いています。
 

 
 滝沢さんが働いて3年目。とあるベテラン清掃員の言葉で、価値観が変わります。

「ベテラン清掃員の『中坊もあと50年だからなー』という言葉ですね。『中坊』とは、中央防波堤外側埋立地の略で、東京都のゴミの最終処分場です。その最終処分場が、あと50年で埋まってしまうという内容を聞き、正直驚きました。それまで僕は何も知らなかったので、その言葉をきっかけに、ゴミ問題を真剣に考えるようになり、勉強し始めました」
 

警鐘! 日本のゴミ処理場は後20年しか持たない!?

 
 ゴミ廃棄に適した場所の少ない東京は長年ゴミ処理問題に取り組んできました。江戸時代の1655(明暦元)年には、現在の江東区で最初のゴミの埋め立てが始まったという記述があります。その時代は、生ゴミは肥料、紙・衣類等は再使用するリサイクルシステムが機能していたため、大きな問題にはなりませんでしたが、東京の人口が急速に増えた明治時代中頃に、ごみの始末が伝染病など環境衛生上の大きな問題を招きました。そこで、ゴミ処理を東京市(当時)が担当するとし、1934(昭和9)年作成の東京市保健局概要には100余りの処分場が作られたという記録があります。

 内陸での処分場の確保が困難になり、1927(昭和2)年からは、現在の江東区潮見に当たる8号埋立地で、東京で出たゴミの埋立てが開始されました。戦後には14号埋立地(現:夢の島)、15号埋立地(現:若洲)、中央防波堤内側埋立地(現:海の森)などが都内のゴミの処分場として使われてきました。現在では江東区の公園や公共施設が点在する場所ですが元々はゴミ処分場だったのです。東京だけではなく、日本全国でこういった最終処分場があり、そこでゴミを処分しています。

「日本の今ある処分場は全体であと20年くらいしか持たないといわれています。20年って結構アッという間ですよ。今の大学生が40代になる頃には、ゴミの行き場がなくなってしまうかもしれません。新しい処分場を作ればいいと思うかもしれませんが、それは非常に難しい。現状は最終処分場を延命させていくしかないそうです」
 

 
 新しい処分場を建設する難しさは「東京ゴミ戦争」などで検索すれば東京都の資料などがネットで見つけられると思います。日本はゴミを焼却する清掃工場も住宅地に比較的近い場所に処分場を設置している関係上、地域住民への丁寧な説明や説得が必要不可欠になります。その背景の中で、滝沢さんが特に注目しているのが、生ゴミの抑制です。

「なぜ生ゴミかというと、いわゆる食品ロスの食品を含め、燃やせるゴミの40%が生ゴミと言われているからです。生ゴミを燃やすためには当然燃料代がかかりますし、CO2も排出されます。例えば、この生ゴミを肥料などに変えられれば、現状の40%のゴミは廃棄物ではなく、宝物…、資源になります。だからこの生ゴミをなんとか有効活用できないかと考えているのです。燃やす量も減らせるので、CO2の削減などにも繋がると思いますので、僕の夢は、生ゴミ問題を解決するリサイクル会社を作ることです」
 

現場で働くからこそ感じる食品ロスの深刻さ

 
 特に食品ロスの問題に関しては、ゴミ清掃員だからこそ深刻に感じている滝沢さん。殆ど口をつけていないコンビニ弁当などがゴミ袋に入っていることは、よく見かける光景で、季節によってはもっと大量の食品・食料廃棄があるそうです。

「例えば、5月のゴールデンウイーク明けは、冷蔵庫の中身を一新するためなのでしょうか、ちょっと食べただけでまだ全然食べられる大根やトマトなど、野菜の生ゴミをよく見かけます。秋には生米のゴミが多いです。新米が出たのでもういらないと捨ててしまうのでしょうか!? あくまで理由は僕の推察ですが、実際にゴミとして捨てられているので、本当に心が痛いです」

 滝沢さんは、“ゴミ”というものは、人がそう思った瞬間に“ゴミ”になると言います。ゴミとはどういうものか考えるのが大切なのです。そのこと伝えるためには、教育が大事だと訴えます。

「ゴミに関わる話をテレビなどで聞いて、問題意識を持ってくれる人が増えてくれればなと思います。僕は講習会なども開催していまして、小さい子にもゴミの話をボランティアですることもありますが、もっと保育園や幼稚園の子たちに楽しく教えるシステムを作りたいなと思っています」
 

 

コロナ禍でゴミ清掃員に対する見方が変わった?

 
 ゴミ清掃員は、社会で必要不可欠な労働をしている、いわゆる「エッセンシャルワーカー」に含まれます。そのため、新型コロナウイルス感染拡大防止のために緊急事態宣言が発令された時期も、社会環境の維持のために変更なく働いていました。大変であることはもちろんですが、このコロナ禍で大きく住民の見る目が変わってきたと滝沢さんは話します。

「こういう非常事態になると、日常の有難みに気づく人も多いみたいで、気づいた人たちから感謝の手紙などをもらいました。また作業中には、メッセージがポリバケツのフタの裏や、取集所の床に書いてあったりとか、ある収集場では小学生ふたりがゴミネットを開けて待っていてくれたこともありました。大変な時ですが、そのことで世間に注目される機会があったことは、清掃員にとっては大きな励みになっています」
 


 
 また、過去にゴミ収集の仕事に関わっていた人たちが、「ゴミ清掃員」という仕事への誇りを感じてもらえるよい機会になったとも分析します。

「おそらく僕らの前の世代の職員って、今以上に苦労があったと思うんです。清掃員は自分らで自らの職業を『ゴミ屋』って呼ぶのですが、それは偏見であったりとか、僕らは人目についちゃいけない日陰者という考えが、深い部分にあるのかと…。自分の子どもに清掃員であることを隠す親も昔はいたと聞きます。なので、今回世間に注目されたことは、これまでこの仕事に関わり退職していった人たちにも、良いことだったのではと思います」
 


 
 ゴミ清掃員の仕事は過酷です。特に新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐために、当初は合羽やゴーグルを着用して作業をしていましたが、猛暑となった5月以降は熱中症などになる職員もいたため、7~8月の夏場はマスクと作業着のみで作業を行っていたそうです。滝沢さんは「7年やっても夏の収集は慣れないですね」と苦労を語ります。
 

 

「人生どうなるかわからない」やり続けることで道は開ける!

 
 滝沢さんは現在、ゴミ清掃員と芸人というふたつの顔を持っており、芸人や清掃員としての取材・講演が入るとゴミ清掃の仕事は休んでいますが、どちらの仕事も辞めるつもりはないと断言します。事務所の先輩芸人である有吉弘行さんも「ゴミのことを誠実に喋れ」と滝沢さんを応援してくれているそうです。

「芸人と清掃員という垣根は自分の中にはないので、やりたいことをやっていくスタイルです。芸人の仕事が忙しくなっても清掃員を辞めるつもりはないです。芸能界なんかいつどうなるかわからない訳ですし(笑)。相方(西堀亮)は役者もやっているので、たまに集まって僕らはたまにお笑いをできればいいかなと、今は考えています」

 2020年9月現在、コロナ禍で厳しい状況が続きますが、大学生には、望んだ職業につけなかったとしても、希望を持って欲しいと滝沢さんは訴えます。

「20年前はこうして清掃員をやって、まさか本を出しているなんて全然思っていませんでしたからね。ビートたけしさんやダウンタウンさんに憧れて芸人になったので、お笑いで天下を獲ろうと息巻いていました(笑)。ぶっちゃけ、人生どうなるかわからないので、あまり思いつめずに気楽に学生生活や就職活動を過ごしてほしいですね。何かをやっていれば、道は拓けると思いますよ」
 

▲面白く、そしてわかりやすく説明してくれた滝沢さん。さすが芸人さん!!
 
 今が上手くいかなかったとしても、どこかで思いがけない方向転換や出会いはあるはずです。滝沢さんのように、最初は自分の望まなかったことでも、自ら興味を持って取り組み続けることで道が拓けるのではないでしょうか。

 今は「ゴミ」でも、「宝物」になれるチャンスは誰にでもあります。

『やっぱり、このゴミは収集できません ~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと』(白夜書房)

http://www.byakuya-shobo.co.jp/page.php?id=6413

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