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「働き方」「職場環境」「多様性」 昆虫“アリ”の社会に持続可能な社会の答えがある? 人間が学ぶべきポイント

2020.11.04 (水)

 
 人類より遥か昔から優れた社会を形成している昆虫のアリ。そのアリを長年研究し、著書『アリ語で寝言を言いました』(扶桑社)を出版した九州大学 持続可能な社会のための決断科学センター准教授・村上貴弘さんに、アリに学ぶ社会形成について聞きました。
 

自由意志で働いているアリ 休んでいても社会は動く

 
 アリは高度に役割分担の進んだ「真社会性」を持つ昆虫です。これはハチやアリなどの社会性昆虫やハダカデバネズミなどのデバネズミ科の哺乳類などが該当します。

 アリの場合、メスが大多数を占める社会で、女王アリが産卵を担当し、働きアリなどの不妊の集団がコロニーの維持を担当しています。こう説明するとトップダウン型社会で窮屈な社会だと思う方もいるかもしれませんが、実はそうではないようです。アリはこうした社会での生活を少なくとも5000万年前からしています。
 

▲リモート取材を受けてくださった村上先生
 
「女王アリと書くといかにもトップダウンな社会かと思われますが、働きアリたちは強制されて活動しているわけではありません。かといってボトムアップ型でもない。実は働きアリは自由意志で働いていて、その集団が機能的な社会を形成しているのです。女王アリは繁殖に特化し、働きアリは自分に血縁上とても濃い姉妹をより多く、長く維持できるよう集団を維持することに特化しています。イメージとは逆に幼虫を女王アリにするか、働きアリにするか、その決定権は働きアリにあります。女王アリに産卵を促すために食料の量をコントロールするのも働きアリです。むしろ女王アリの方が束縛されているかもしれないくらいなのです」

 村上さんの著書『アリ語で寝言を言いました』(扶桑社)でも書かれていますが、アリは自由意志で働いており、中にはサボっているアリもいるとか。それが、「2:6:2」の法則で、かなりの種類のアリの巣がこの法則に当てはまるそうです。“2割がよく働き”、“6割が普通に働く”、“2割はあまり働かないアリ”です。

「この法則は、一点に集約して働けばいいという訳ではないということを教えてくれます。7割以上が休みがちでも社会は動く、アリは個々にきちんとした判断基準をもっており、音や匂いで情報共有をしています。休んでいるアリたちもただ単純にサボっている訳ではなく、巣の破壊など、不足の事態に備えて体力を温存しているという側面もあります」

 他の動物や植物との共生について、生態学、動物行動学、神経生理学、発生生物学など多岐に渡る分野から、アリの生態は注目されています。アリの行動パターンを解明して、AI研究(最適化アルゴリズム研究)に使おうという試みもあるようです。アリ1匹では大したことのない力ですが、集団になると連携して獲物を捕らえたり、巨大な巣を建造したりします。

「ハキリアリのように農業をするアリもいれば、他のアリの巣を略奪するサムライアリのような種類もいます。ハキリアリは植物や菌類の豊富な地域に住み着いているからそのような生活をするようになり、サムライアリはしっかりと安定した社会を持つ別種のアリが生息している地域に住んでいるので、略奪という手段を獲得しました。まさに住む場所の環境に合わせて、能力が最大限に発揮できるように適応していったのです」

 ただ、アリの多様性を理解するには、人間の認知能力ではどうしても限界があるとのこと。アリの社会には私たちの理解を超えた生活があります。

「種類によっては、一回り二回りどころか、人間とザトウクジラほどの体格差のある姉妹と普通に生活しているアリもいます。我々の知らない世界があり、そこで普通に生活が出来ている生物がいるということに、もっと想像力を働かせなければいけないですね」

 アリの社会で特に優れている点は、全てが持続可能な社会であることです。人間は社会的な生活を初めてせいぜい20万年、近代的な文明社会の生活を始めたのはわずか200年前からです。
 

 
 アリは1億5000万年間からこの地球に生息しており、恐竜が絶滅した白亜紀末の大量絶滅でも生き残りました。そして、5000万年前には現在とほぼ変わらない社会の形成を始めたのです。

「我々人間は、この200年の間に西洋由来の文明社会を築いてきましたが、現在の世界的情勢を考えると、とても持続可能な社会を形成したとは言い難いですよね。新型コロナウイルスの影響もあり、スーパーグローバリズム社会の限界が露呈していると考えられます。このような情勢下では、アリの持続的な社会から我々人間が学ぶべき点があると思います。そのまま取り入れるのは難しいですが、本質的な部分を深く理解し、真の意味での持続可能な社会を形成するというチャレンジは必要かもしれません」

「個々が適切に判断し、自由意志で活動する働き方」
「自分の能力が最大限に発揮できる環境」
「外見や能力の違う仲間と住む生活スタイル」

 アリの特徴を見た時に、我々人間がどう感じるのか!? 非常に深く考えさせられるアリ社会です。
 

研究者のモチベーションはどこから湧き出てくるのか!?

 
 現在、村上さんが取り組んでいるのが、アリの“会話”の言語化。将来的には、ハキリアリの言語を解読して、コミュニケーションを取ることができるツールを開発することを目標としています。会話解読の対象になっているハキリアリは「腹柄節(ふくへいせつ)」という器官で音を発しコミュニケーションをしているそうで、実は小さすぎて音が聞こえないだけで、ハキリアリに限らず、こういった音でのコミュニケーションをとるアリは多いそうです。

「アリでは社会の進化とコミュニケーション手段の複雑さに関係があるという結果が示唆されています。言語を話すのは人間だけと思っている人もいるかもしれませんが、アリは確かに喋るんです。僕が研究しているハキリアリのとある個体は、15分で7500回くらい喋っているのを発見したときは、あまりに饒舌すぎて解析するのにちょっとくじけそうになりましたが、ゴールは見えているのでやり遂げなければという使命感でやっています」

 最後に中南米の熱帯雨林に入り、アリに噛まれたり刺されたりしながらも研究を続ける村上さんに、モチベーションの保ち方について聞きました。
 


 
「自分の本当に興味があることじゃないと続かないと思います。今はコロナ禍で大学生にとっては就職も大変かと思いますが、有名な会社やかっこいい職に就けなかったとしても、自分にとって何が一番大事なのか、何をしている時が一番幸せなのか、そのことをとことんまで突き詰めて考えれば、どんな環境でも楽しめると思います。僕も、一見すると過酷な状況でも、アリの社会の魅力に取り憑かれているので、ほとんど何も考えずに突破することに集中できていると思います」

 村上さん自身も元々は鳥の研究をしたかったそうですが、担当の教授から「鳥類はデータを取るのが難しいよ、アリはどうだい?」と当時はあまり興味のなかったアリの研究をすすめられ、現在に至っています。最初は興味がなくても自分で興味ポイントを探すことが重要なのではないでしょうか。

著書「アリ語で寝言を言いました」(扶桑社)

https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594085469

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