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伝統野菜「木之山五寸にんじん」消滅の危機! 継承者不足だけでない効率化・産業化がネックに!

2020.02.06 (木)

 2月5日、無添加調理による加工商品の製造・販売を展開する石井食品株式会社が、都内で愛知県大府市産の伝統野菜『木之山五寸にんじん』を使用した新商品発表会を行った。

 伝統野菜とは、各地で古くから栽培・利用されてきた野菜の在来品種を指す。数ある伝統野菜の中の1つ『木之山五寸にんじん』は、大正時代から愛知県大府市で栽培されていたが、農作業者高齢化や農業の効率化により、消滅の危機に瀕している。
 

 
 石井食品では、生活者と生産者をつなげることをテーマにした「地域と旬」の取り組みを2016年から行っており、2017年には2軒の生産農家と契約。木之山五寸にんじんを使用した『愛知県大府市産 木之山五寸にんじんをのせて味わうまぜごはんの素【一合用】』と『愛知大府市 木之山五寸にんじんまぜごはんの素【二合用】』を販売している。

 今回の新商品ではより幅広い人に食べてもらうべく、同にんじんの特徴を生かした『愛知県大府市 木之山五寸にんじんソースハンバーグ』と『愛知県大府市 木之山五寸にんじんスープ』の2種類を、愛知県内の道の駅、百貨店、一部生協、都内の三越、新宿高島屋の他に自社のECサイトで全国発売する。
 

 登壇したマーケティング部・小島拓也さんは、今回の新商品発売の狙いを「ターゲットとしては幅広く、野菜嫌いのお子様にも食べやすい商品で、伝統野菜の認知を広めていきたい」と説明した。
 

深刻な農業の後継者不足…収入の不安定さが大きなネックに

 
 発表会後半には元農林水産大臣の山田正彦さん、伝統野菜農家の山口友和さん・山口茂樹さん、あいち在来種保存会の高木幹夫さんが登壇し、『日本の伝統野菜をどう次代へ継承するか』というテーマで、石井智康代表取締役社長執行役員の進行でパネルディスカッションが行われた。
 

 
 山口友和さんは長年に渡り木之山五寸にんじんを栽培してきたが、現在伝統野菜が置かれる窮状について「昔は年間5万ケース出荷していたのが、今は激減している。一番の原因は後継者不足。我々みたいな高齢者ばかりになってくるので、自然と市場が縮小されてしまう」と明かす。

 山口友和さんと山口茂樹さんは石井食品に、にんじんを出荷している2軒の農家だが、他に小規模な範囲で栽培している農家を合わせても、現在は4軒しか木之山五寸にんじんを作っていないという。

 農家の成り手が不足する原因は、天候や市場価格による収入の不安定さだ。この問題は、20年前あたりから特に顕著になっているそうで、山口茂樹さんは「私の息子は勤めに行っているのですが、息子の方が稼ぎは全然いいので『農業をやれ』とは言えません。退職してからやってみるのはいいかもしれませんが」と心の内を明かす。

 既に後継者不足は、農家個人では解決できない大きな問題になっており、山口友和さんは、国の補助や保障をもっと充実して欲しいと訴え、「皆さんの力で農業が繁栄ある職業にしてもらえればなと思っています」と呼び掛けた。
 

効率化・産業化された農業では伝統野菜は排除されてしまう

 
 また、伝統野菜が危機に瀕している理由としては、高度に産業化した農業の弊害も大きい。
 
 現在の農業で生産されている野菜は通常「F1」と呼ばれる「雑種第一代」が殆どを占める。この野菜は、複数の品種の優れる部分だけを交配したもので、作物としては丈夫で栽培しやすく、均一に形がそろう野菜になる。
 
 しかし、栽培できるのは一代だけで、二代目以降を一代目の種子で栽培しようとしても同じような強い作物にはならない。そのため、農家は種子を毎回業者から買うことになる。

 山口茂樹さんは「収支率が少ないものはどんどん削減して、F1種を栽培するようになっていった」とコメント。にんじんに関しては、F1種は薄味になる傾向があるそうで、道の駅の客に「あなたが作ったにんじんは、すごくにんじん臭い」とクレームを受けたときもあったそう。

 高木さんも「これが今の食文化・食生活なのです。種から野菜を作る農家は少なくなり、種や苗を買うようになりました、その方が儲かるから。私が放棄してしまえば失われてしまう種もある」と現状を明かす。

 残念ながら、伝統野菜の中でも京野菜といった知名度の高い野菜は環境が整っているが、地方で栽培している大多数の伝統野菜は知られておらず、市場的価値もそれほど大きくない。
 

食の安全保障の面でも伝統野菜の保全は必要!

 
 山田さんも「F1種子になると、形は揃っていても、味は水っぽい感じというか、薄くなっていますよね。本当のにんじんの味を美味いと思わなくなってきているのかな? それが伝統野菜のなくなっている理由なのではないのでしょうか」と、伝統野菜が受け入れられなくなっていることを惜しんだ。

 その状態を少しでも是正しようと、石井食品は伝統野菜を使った食品を販売しており、石井社長が「生産者や製造側でどれだけ『いいものだ』と言っても、独りよがりになってしまう。農業から縁遠い人たちにどうやってファンになってもらうか、ということは小さいことかもしれませんが、大切な活動だと思っています」と熱く語った。
 

 
 最後に会場では、木之山五寸にんじんとそれを加工した石井食品の商品試食も行われた。

 にんじんソースハンバーグはニンジンのみじん切りをふんだんに使ったソースが特徴で、にんじんスープはにんじんの風味はありつつも、子ども食べやすいようになっている。木之山五寸にんじんの食感はいかにも根菜といった感じで、甘味の中に苦みがある美味。スープもハンバーグも“にんじん本来の味”を楽しむことができた。
 

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