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「自然再生」世界と日本の差…「持続可能な社会へ」若者たちがすべきこと

2017.11.10 (金)

「持続可能な社会を作るために、先進国を中心とした国々は積極的に動いているが、正直日本はまだまだ及ばない。経済優先では未来がない」と厳しく指摘するのは公益財団法人日本生態系協会会長の池谷奉文氏だ。同協会は日本の他にアメリカ・ワシントンDCとドイツ・ボンに事務所を構え、30年ほど前から世界の最新自然情報を収集している。

 まず、国際的な流れを確認してみる。

 大気汚染や酸性雨などの問題が世界的に表面化したことで、1972年にスウェーデンのストックホルムで「国際連合人間環境会議」が開催。同国際会議は環境問題について、世界で初めての大規模な政府会合となった。その後、1982年には「ナイロビ会議」、1992年には「国連環境開発会議」、2002年には「持続可能な開発に関する世界首脳会議」、2012年には「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」が開催され、天然資源保護、野生動物の保護、海洋保全、環境教育、人口増加、オゾン層破壊、生物多様性など幅広い分野の課題に対して、各国が協議し、条約や原則を決定してきた。

 そして、2015年9月にニューヨーク国連本部で開催された「国連持続可能な開発サミット」では、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択。人間、地球の繁栄のために17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs)」が明確に打ち出された。日本政府も「持続可能な開発目標実施指針」を策定。環境部門では「生物多様性、森林、海洋等の環境の保全」「省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会」を優先課題として取り上げている。
 

 
 池谷氏は「太陽、空気、水、土、野生生物の遺伝資源という生態系があってこその人類。これらがなければ人間は生きることができない。生態系は人間の生存基盤なんです。将来世代が生きるためには、持続可能な世界が必要。これからは、街づくりを含めた人間の生き方を大きく変えていかければいけない」と強調した。
 

あと5年以内に日本へ飛んでくる黄砂はゼロに!?

 
 現在、世界各国はどのような対策を実施しているのだろうか? まず、池谷氏がピックアップしたのは中国だ。

 実際に現場を調査した池谷氏によると、中国は政府主導で自然再生事業に力を入れており、14期5ヵ年計画を実施中。これまでの戦乱や森林伐採などの影響により、黄土高原の植生は壊滅的になっていたが、現在1250万ヘクタール(日本国土の3分の2ほど)に、木を植えている。このおかけで、黄土高原から日本へ飛んでくる黄砂が半分程度減少し、あと5年以内には黄土高原の黄砂はゼロになるだろうと予測。

 「中国国内では、物凄い堅実な国造りをしていて、世界ナンバーワンの自然再生事業を展開している。世界各国と比べても圧倒的」と池谷氏は評価した。

 そして次にドイツ。

 「日本の林業は、基本的にスギならばスギ、ヒノキならばヒノキの一種類、しかもそれを密植する。そうなると葉が邪魔して、太陽光線が土壌に届きづらくなる。雨が降ってしまったら土壌は流れてしまい、草が生えない。ドイツは、トウヒの周りに広葉樹を植えている。広葉樹の葉っぱが落ちるスペースがあるので、落ち葉が質の高い土壌を形成する。栄養もあるし、遺伝子も残る。これが持続可能性の高い林業」
 

左が日本の単純林イメージ。右がドイツの林業。スギ(三角)の周りに、広葉樹(丸)が植えてある。矢印は太陽光。
 
 一昔前は、ドイツの森は太陽の届かない「シュヴァルツヴァルト(黒い森)」と呼ばれていたが、現在は明るい森に変貌。また、林業をする林と自然の森を区分けし、お互いに共存するように工夫されているという。

 次に韓国。

 スンチョン市では公共事業として土地を購入し、自然と共存する街づくりを実施している。スンチョン市はシベリアやロシア東部から飛んでくる鶴などの野生鳥類のために、農地にある電柱電線を撤去。野生動物の生息地を作るために、住宅地と森林を区画し、その間にはバッファーゾーン(緩衝地帯)を設けている。また、韓国の清渓川(チョンゲチョン)では、1950年代頃に都市開発の影響で水質汚濁が悪化していたが、2002年に「清渓川復元プロジェクト」が始動し、2005年には清流の流れる川へと変貌した。
 

自然再生された後の清渓川。以前は三面護岸され、生物多様性に乏しい人口の川だったが、その後上流から野草等を移植し、本来の川の形に近づいた。
 

地球は? 人類は? 未来はどうなる? その答えとは…

 
 それぞれの国で「持続可能な社会」へ向けて努力を実施している中、国単位ではなく、個人単位でもできることはあるのだろうか。

 2012年に世界自然保護基金(WWF)が、「生きている地球レポート」を発表。その中で、急激な人口増加と資源の過剰消費により、「2030年までには地球が2個あっても足りない」と警鐘を鳴らした。

 池谷氏は「地球自体は滅びないが、このままだと人類にとっては厳しい世界が待っている」としつつも、「特に日本は今、中国やドイツ、韓国などに遅れをとっているが、今から自然再生事業を本格化すれば、20年〜30年で自然と伝統文化が共存する持続可能な国(社会)を構築することができる」と明るい未来の方向性を示した。

 そして、持続可能な国を作るためにすべき具体的な個人行動を3つ挙げた。

 1つ目は「極力質素簡素な生活をすること」
 2つ目は「社会ボランティアをすること」
 3つ目は「政治参加をしっかりすること」

「これからの若者たちには、自分の利益や楽しみだけではなくて、将来世代の利益も考えて行動して欲しい。持続可能な社会を作るには、小さな積み重ねと意識改革が必要です」

 今からでも遅くはない。将来世代のために、まず自分でできることを考え、実行する…それが未来を創る重要な一歩となるだろう。

公益財団法人日本生態系協会

http://www.ecosys.or.jp

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